花豆の発芽と積算温度

はじめに

今年は、5月11日に花豆を苗ポットに種まきしました。その後の発芽の進行と子葉(双葉)形成の進行を観察し、その結果を図にしてみました(図1)。

図1: 花豆の発芽と子葉になるまでの経過( N=40 )。Y軸は種・苗のステータス(種、発芽、子葉)を累積パーセントにしたものです。X軸の第1軸は年月日、第2軸は積算温度( ℃ )。

図1: 花豆の発芽と子葉になるまでの経過( N=40 )。Y軸は種・苗のステータス(種、発芽、子葉)を累積パーセントにしたものです。X軸の第1軸は年月日、第2軸は積算温度( )。

ここでの「発芽」は図2、「子葉」は図3のような状態です。

図2:  発芽の状態。芽の先端が地中から出たかどうかを判断基準としました。花豆では、まず軸の部分がアーチ状になって土から出てきて、先端部分は最後に地中からアタマをもたげます。

図2: 発芽の状態。芽の先端が地中から出たかどうかを判断基準としました。花豆では、まず軸の部分がアーチ状になって土から出てきて、先端部分は最後に地中からアタマをもたげます。

図3:  子葉になった状態。2枚の子葉の広がり角度がおよそ100度以上になったかどうかを判断基準としました。

図3: 子葉になった状態。2枚の子葉の広がり角度がおよそ100度以上になったかどうかを判断基準としました。

花豆の発芽について

積算温度との関係

有馬(1986)1 によれば、花豆(ベニバナインゲン)の

「出芽に要する 積算地温 2(0℃基準)は 140℃ であって、播種から 出芽始 までに要する日数は標高によってことなり、6日(伊那市の夏期)〜10日(野辺山)である」

とのこと。

今回の結果は

140℃という数値の元になった論文は見当たりませんでしたが、今回の小規模な観察でもほぼそんな感じになりました。

  • 140℃はあくまで「出芽始」までの積算温度とされています。実際、その温度になっても発芽するのはおよそ 半数 のようです。
  • 残りの半分はそれから10日ほどかけて少しずつ発芽しました。この間の積算気温は100数十℃になります。
  • 個体差が大きいというか、2倍以上の日数(と積算温度)をかけてやっと発芽が揃うのはちょっと意外でした(二十年間ほども栽培していますが・・・)。
  • このバラつきの大きさの理由は不明ですが、もし発芽同時性が高いと、発芽後に 遅霜 がおりると全滅します。それを防ぐという意味合いがあるのかも知れません。
  • 花豆は発芽の後に子葉(双葉)になるタイミングもばらつきが大きいようです。子葉が半分ほどが出そろうのは播種後14日から16日にかけて、積算温度が230℃前後になります。あとは「三々五々に」少しずつ子葉を出してくる。これも遅霜には有効ですね(注3)。

気温データの取得

積算温度の計算方法はいろいろあるようですが、ここでは1日の平均気温( 日平均気温 )を用いる簡便法を採用しました。また日平均気温の算出には、1時間ごとの24ポイントの気温を平均する方法を採用しました。

アメダスデータ

気温データはアメダスの現在気温のデータを使わせてもらいました。 横浜こちらのデータを使えますが、 片品村 にはアメダスの測定ポイント(気温)が存在しないので、もっとも近隣にある「みなかみ藤原」のデータを使いました(注 4)。

畑の場所と「みなかみ藤原」には標高差が250m以上ありますので、平均温度は畑の方が1.5℃程度低いと思いますが、今回はその辺は目をつむっています。

なお、アメダスデータはスクリプトをcronで毎時1回ずつ起動して取得します。仕掛けは簡単で、上記の横浜と片品村のURLを curl -s したサイトのデータ ${site}.html から次のような方法で気温を抽出しています:

current=`grep ">現在<" ${site}.html | grep "℃" | grep -Eo '[+-]?([0-9]*[.])?[0-9]+'`

もっとエレガントな方法があるかと思いますが、現在のところ取りこぼしなどのエラーは起こっていません。

抽出したデータは次のような形のファイルにして保存します:

  :
2020-06-11 00:03 19.1
2020-06-11 01:03 18.1
2020-06-11 02:03 18.1
2020-06-11 03:03 18.1
2020-06-11 04:03 17.8
2020-06-11 05:03 17.7
2020-06-11 06:03 18.2
2020-06-11 07:03 19.1
2020-06-11 08:03 19.8
2020-06-11 09:03 21.3
2020-06-11 10:03 23.0
  :

毎時03分にデータを取得しています。毎時00分にアメダスデータを取得するのは意図的に避けています(注 5)。

日平均気温の計算

上で収集した毎時の気温データファイルを24個読み込んで、毎日23時30分に当日の日平均気温を算出します。awkを使うと1行で平均値が計算できるのですね、ありがたいです:

cat ${kion}.dat | awk '{m+=$3} END{print m/NR;}' > ./wrk-avr.dat

グラフのプロット

データは次のような形になっています。右側の6カラムはポット苗のステータスで、 1=種, 2=発芽, 3=子葉 です。

# Date   平均気温 積算温度 1   2   3   4   5   6
2020-05-11  0      0      40   0   0   0   0   0
2020-05-12  14.6  14.6    40   0   0   0   0   0
2020-05-13  22.7  37.3    40   0   0   0   0   0
2020-05-14  20.7  58.0    40   0   0   0   0   0
2020-05-15  21.3  79.3    40   0   0   0   0   0
2020-05-16  18.1  97.4    40   0   0   0   0   0
2020-05-17  21.3  118.7   40   0   0   0   0   0
2020-05-18  18.7  137.4   40   0   0   0   0   0
2020-05-19  14.8  152.2   20  20   0   0   0   0
2020-05-20  11.2  163.4   15  25   0   0   0   0
2020-05-21  9.7   173.1   13  27   0   0   0   0
2020-05-22  12.8  185.9   11  29   7   0   0   0
2020-05-23  15.3  201.2   10  30   8   0   0   0
2020-05-24  16.4  217.6    7  33  10   0   0   0
2020-05-25  16.9  234.4    6  34  20   0   0   0
2020-05-26  15.9  250.3    6  34  30   0   0   0
2020-05-27  15.0  265.3    3  37  34   0   0   0
2020-05-28  13.9  279.2    3  37  35   2   0   0
2020-05-29  13.3  292.5    3  37  35   4   0   0
2020-05-30  15.0  307.5    2  38  37   6

これを読み込んで図1をプロットするためのスクリプト(gnuplotパート)は次のような感じです。Y軸を2本描くのはちょくちょくやりますが、X軸を2本というのは初めてでしたw あと、図1のようにX軸が日付の場合に、図中に矢印を入れるのもそれなりにもたつきました。

set terminal pdfcairo transparent enhanced font "Arial, 8"

set grid x y
set key left top
set output '$out_file'

set xdata time
set timefmt "%Y-%m-%d"
set format x "%m/%d"

set yrange [0:100]
set xrange ["2020-05-10":"2020-05-31"]

set xtics nomirror
set x2tics

set title 'ベニバナインゲン(花豆)播種育苗記録(2020)' font "Arial,13"
set xlabel 'Date(2020)' font "Arial,10"
set x2label '積算温度( ℃日)' font "Arial,10"
set ylabel '累積ステータス(%)'  font "Arial,10"

## ラベルの書き方 = timefmtで指定した通りに指定する
set label 1 "播種(05/11)" at "2020-05-11",17 center
set label 2 "定植(05/30)" at "2020-05-30",17 center

## 矢印の入れ方 = timefmtで指定した通りに指定する
set arrow \
   from '2020-05-11',14 \
   to   '2020-05-11', 2\
   linewidth 2 lc "blue"

set arrow \
   from '2020-05-30',14 \
   to   '2020-05-30', 2\
   linewidth 2 lc "blue"

plot '$data_to_plot' \
	 u 1:(column(5)/40*100):x2tic(3) w lp ps 0.5 pt 7 title '発芽',\
      '' u 1:(column(6)/40*100):x2tic(3) w lp ps 0.5 title '子葉'
set output

今後の課題

  • できれば畑の温度を近似値ではなくて、温度ロガーで正確にリアルタイムに収集したいと思っています。安価な方法を探索中です。
  • 植物の状態を観察しカウントした数を「観察ノート(online)」に記入したら、その時点でのグラフが自動的に描出されるようにしたいと思います。
  • 積算温度を第2X軸にしたのは、どちらかと言うととっさの逃げの一手。できれば積算温度をカラーマップ風に描きたかったのですが・・・

おまけ

今日の花豆(2020/06/12)

播種からちょうど1か月経過した花豆の様子です。ツルの先端はボクの背丈ほどあります。豆の成長はほんとうに速い。「ジャックと豆の木」の童話が生まれた訳が分かりますw

図4:  播種後1か月目の花豆。

図4: 播種後1か月目の花豆。

図5:  花豆トンネルの風景。

図5: 花豆トンネルの風景。

Acknowledgement


  1. 有馬博 (1986). ベニバナインゲンの栽培方法. 信州大学農学部農場報告, 4 , 1-11↩︎

  2. 気温と地温は厳密には別物ですがここでは気温を指標として使いました。 ↩︎

  3. 発芽率が50%になるための積算温度とか日照、水分とかの条件が、おもな作物の種について一覧表になっていると、誰が育ててもうまくいくのですが・・・。きっとありますよね。 ↩︎

  4. 去年までは、花豆の種まきから苗の育成はすべて横浜で行いました。今年は種々の特殊事情によって、ポットへの播種は片品村で行いましたが、数日後にはポットごと横浜に持ち帰り、また1週間後に片品村に持ってくるというイレギュラーな形になりました。そのために、横浜と片品村の2箇所の気温データが必要となりました。 ↩︎

  5. tenki.jpだけではありませんが、毎時00分にcronでスクレーピングすると、ちょうどサイトデータの書換タイミングにぶつかったりします。またサイト運営者にとっても毎時00分に curl などでアクセスが入るのは好ましくない可能性もあります。それやこれやであえて03分にしました。 ↩︎